下記は「価値創造の思考法」からの一部抜粋です。
消費社会のなかでも特徴的なのは、戦後から今日までという期間です。戦後日本の最も特徴的な変化は、人口増加と所得増加、そして都市化の3点だろう。
人口が増加し、所得が増加するとともに、巨大都市が生まれ、人口が都市に集中していった。これに対して現在では、誰もが知っているように人口は減少に転じ、現代はいわゆる人口減少社会であります。
こういったマクロな変化だけでみても、これまでとはまったく異なる社会が訪れているのがわかります。人口が増加し、所得が増加し、都市が肥大化していった時代に、求められるべく生まれて育っていったビジネスとは、まったく社会の背景が異なります。社会から要請されているものがすでに大きく異なっているのです。
しかし、ここで言いたい”激変”は、そういう量的なものだけではないのです。それは、対比するならば質の変化というべきものです。
そこで、こん質の変化を、食の経済という視点から述べます。「食べる」ことは人の根源的な欲求でもあり、一方でミシュラン推奨レストランやスイーツの人気に見られるような多様な欲求に応える点で、消費社会の変化をひもとくのにいい題材だと思うからです。
東京大学大学院・農学生命科学の中嶋康博教授の編による「食の経済」(ドメス出版、2011年)。中嶋氏はそこで、食品経済の観点から食の消費の推移を見ると、単に胃袋を満たす時代から、舌で味わう時代へと移行し、現在は頭で楽しむ段階に移行していると指摘しており、頭で楽しむ先駆的かつ典型的な例としてワインを挙げています。
胃袋を満たす時代には、とにかくお腹さえ膨れればよかったのです。それが舌で味わう時代になってくると、やはりおいしくなければならないという消費者心理が生じます。
もっといろいろなものを食べて見たいという欲求も高まってくるし、目で楽しむという要素も入ってきます。さらに頭で楽しむ時代になると、これはどこで採れたものだろうか、どんな人が作っているものだろうといったことなどが、食べることに関わってきます。
生産者が社会貢献を行っていることや、安全性確保のためのレベルの高い取り組みなども、評価に繋がっていきます。
このように、現代は「胃袋」ではなく「頭」で食べる時代になっているのです。