「行政にしかできない業務」とは何か、が問い直される
「公務員でなければできない業務とは何か」AIなどによる抜本的な業務の効率化が進んでいくと、当然出てくる議論だろう。例えば、情報システムの管理・保守の業務は民間事業者に任せた方が効率的であるとか、ITを活用して職員の給与計算や管理業務を改善できるなら業務自体を外部委託にしよう、などの動きが出てくるはずです。このような業務をまだ役所で行っている理由として、外部委託より内製化しておく方がまだコストが低いことや、セキュリティ関係業務は行政の方が安心、などが挙げられますが、AIやITの発展や他の自治体との共同運用などでコスト面の課題は近いうちにクリアされるでしょう。
「安心感」について、日本では意外と大きなハードルで、行政に対して厳しく批判する人でさえ、外部委託に対しては、未だに「行政出ないと個人情報の管理に不安がある」などと考えていることが少なくありません。
しかし、生駒市をはじめ、いくつかの自治体では、市民課の住民票交付や各種証明書の発行など、個人情報を扱う窓口業務をすでに外部委託しています。そもそも、個人情報を取り扱う業務も民間事業者のIT技術を使わないと運営できないのですから、全てを行政で行うと言う幻想はとっくの昔に終焉しています。
秘密保持や情報セキュリティに関するルールと、違反時のペナルティ、チェック体制などをしっかりと整備できなければ、個人情報を含む業務であっても外部委託してはいけない理由はもはや存在しません。
米国サンディ・スプリング市の衝撃
2009年に1冊の本が出版され話題となりました。「自治体を民間が運営する都市 米国サンディ・スプリングの衝撃」(時事通信社)です。米国のジョージア州に新たにできたサンディ・スプリングス市は、消防と警察以外の業務を全て民間事業者であるCH2M HILL OMI社に委託したことにより、市役所の職員はなんと9人。2006年1月1日に始まったこの挑戦は、12年以上経つ現在も改善を加えながら継続・発展しています。それどころか、サンディ・スプリングス市の成功により、同様の試みが他の自治体にも広がっており、1つの市の業務を丸ごと1つの事業者に委託するのではなく、近隣の自治体が連携して、業務ごとに民間事業者に委託することで、規模のメリットも出しながら、より専門性の高い事業者に業務運営を委託することができるようにもなっています。
抜本的な形の外部委託による市政経営が進化しているのです。
一方で、このような取り組みが「富裕層とそれ以外との分断を促すのではないか」「採算の取れない行政サービスが明らかに低下している」とする意見もあり、トランプ政権の誕生と共に改めて議論が高まっています。
いずれにせよ、行政への役割や期待がまだ強い我が国に置いて、職員数が9人の市が今すぐできる可能性は小さいでしょう。しかし、AIの発展も視野に入れながら、業務の大部分を外部委託するという選択肢は持って置かなければならない。
いきなり全ての業務を委託することはできなくても、一部の部や課の業務を大胆に外部委託ができないか、ゼロベースで検討を始めることが必要とされるからです。
市民ニーズの多様化・複雑化に、社会保障費の脅威的な増加など、財政が厳しさを増し続ければ、小手先の改善や業務仕分などだけでは追いつかない時代が来ます。市民やメディアからも行政コストの削減が強く求められ、新たな「小さな政府」ブームが来るかもしれません。
10年で激変する! 「公務員の未来」予想図